投手のギアチェンジについて

ピッチング、特に先発投手のピッチングについて語る場面でよく出くわす"ギアチェンジ"という概念。この概念が事実としてあるのか、あるのならその中身も覗いてみたいと思います。

ギアチェンジは存在するか

野球におけるギアチェンジ、解説者や選手、ファンの使い方としては「(重要な場面に)常時は全開でない(先発)投手が出力を上げて抑えにいくこと」でしょうか。

ちなみに大御所野球ゲーム、パワプロにもギアチェンジという特殊能力がありますが、その発動条件・効果はGamerchによると以下です。

パワプロのギアチェンジ能力

ではギアチェンジの存在を数字でしっかり拾えるかどうか調べてみます。

ピンチにおける出力の変化

パワプロでは球速以外にもコントロールや変化球のキレ(曲がり始めの遅速)も上がる能力とされていますが、コントロールとか変化球のキレの話は複雑かつ高度ですし、解説者やファンがギアチェンジを測る指標としてよく使われるのが球速なのでここを調べます。

ギアチェンジによる球速変化の比較対象はその試合の球速です。「試合序盤の150キロ前後のストレートから大幅に球速を上げていました」という上記記事の表現もよく聞きます。

ということでトラックマン、ホークアイによる測定値が記録されている2017年以降のMLBを対象に、その試合における平均球速との差を球種ごとに算出し、それをアウトカウント、塁状況別にまとめました。

アウトカウント・塁状況別の球速変化

いろいろ興味深い箇所はありますが、状況によって投手の出力が変わっているのは間違いなさそうです。

ランナーが先の塁にいるほど、アウトが増えるほど出力が上がっています。気になるところはランナーが二盗可能な状況では他の似た状況と比して出力が上がっていないところ。盗塁の警戒から出力に最適化されたフォームで投げられていないのでしょうか。

他は、満塁より三塁・二三塁の方が多少ではありますが出力が上がっているところ。満塁より四球による損失は小さく、内野ゴロのアウト期待値の違いから三振の相対的失点抑止力が二三塁の方が大きくなるからとかが考えられますかね。

では先発投手とリリーフ投手でこの傾向に違いはあるのでしょうか。

先発とリリーフの球速変化比較

ピンチな場面ほど出力が上がる基本的な傾向は似ていますが、やはり長いイニングを投げることも求められる先発の方が出力の変化の幅が大きいです。

先発が無死無走者を基準にすると二死満塁で1.38km/h出力が上がりますが、リリーフ投手は二死三塁で0.65km/hの上昇が最大です。

ここで先ほど語った、満塁と三塁・二三塁での出力変化の違いの話にも進展が見えます。この状況を比べたとき、先発はランナーの数ほど出力が上がっていますがリリーフはむしろ逆です。

試合の序盤・中盤を投げる先発ほどランナーの数(失点期待値)を、終盤を投げるリリーフほど失点確率の方を意識しがちなことは推定できるので、失点確率の方に比重を置くと四球を出しても(制球を落としても)三振を獲りにいく(出力を上げる)という行動の合理性はリリーフの方が高くなることも推測できます。

何にせよ、ギアチェンジという言葉が使われる理由は数字で確認できました。

ではざっくりとした"ピンチ"という表現ではなく、得点期待値の観点からも見てみます。(ここからは主に先発投手を対象にします)

得点期待値と球速変化 得点期待値はBaseball Savant(2017~2023)から算出

状況による出力変化を合理たらしめるものは、状況による重要度の変化です。

ということで、まずは定番の得点期待値と照らし合わせてみますが、基本的にアウトを重ねるほど出力が上がる投手に対して、得点期待値はアウトを重ねるほど下がるので目立った相関はありません(R = 0.17)。

ただこれは、得点期待値という複数打席(その状況からイニング終了まで)の数字と単打席の出力変化を照らし合わせるのがそもそも頭の悪い話です。

そこで単純ではありますが、状況そのままにアウトを増やしたときの抑止得点期待値と照らし合わせてみます。例えば無死満塁(得点期待値 2.32)から三振なり内野フライなりで一死満塁(得点期待値 1.59)にできたら得点期待値は0.74(四捨五入誤差)下がりますねということです。

この観点から見ると、アウトを重ねるほど出力を上げることの非合理さも目立たず、そこそこの関係性が窺えます(R = 0.57)。また後述しますが、投手は球数を重ねるほど出力は下がるので、終わりが見えない無死より終わりの見える二死ほど出力が上がるのもイニング単位で考えると多少の合理性は見えてくるのではないのかなとも思います。

場面の重要度における出力の変化

さっきと同じじゃね?と思うかもしれませんが、失点を減らす観点での場面の重要度と試合に勝利するという観点での重要度は違います。

1回裏 5 - 0 の二死二三塁と9回裏 1 - 0 の二死二三塁では1つのアウトや1つのヒットが勝敗結果に及ぼす影響度が違うことは分かりやすいかと思います。

先ほど失点の観点からシチュエーションを24通りに分けましたが、勝利の観点ではさらに点差、イニング、先攻後攻によっても分けられます。

そこで、そのような場面ごとの重要度を測る指標「Leverage Index」を利用します。Leverage Index (LI)を一言で説明すると、「勝利確率の振れ幅」でしょうか。大差のついた最終回の1打席では勝利確率の増減は0%に近くても、接戦なら1打席で20%程度の増減もあるのが野球です。その振れ幅の平均との比較で場面の重要度を測っています。英単語"leverage"はてこの原理という意味でもよく使われるので連想もしやすいかなと思います。

LI は得点期待値と同じくsavantの変数から算出しました。FanGraphsのLIとの比較がこちら。

LI比較

FGが具体的にどの期間を対象にLIを算出しているのか知りませんが、とりあえず2008~2023を対象に算出したLIで十分そうです。

ではLIと出力変化について見ていきます。

まずは単純にLIごとの球速の変化がこちら。

LIと球速変化

順当にレバレッジが高い場面ほど出力が上がっています。がここには罠があります。

というのも投手はイニングを追うごとに球速を落とします。

イニング別球速変化

なんだかんだ言って元気のある初回に元気のある球を投げています。がここにも少し罠があります。

というのもイニングによってLIが違います。

イニング別LI

接戦であるほど、終盤であるほどレバレッジは高くなりますが先発投手の場合、打者が慣れてきて投手が疲れてくる終盤に続投を決断されるのはレバレッジの低い大差のついた場面が多くなります。

という風に投手のイニング、レバレッジごとの球速変化というのはイニングやレバレッジがお互いに作用している可能性があるのです。

なのでLIによる球速変化を調べるにあたってイニングによる補正も行います。具体的には各LIを0.25ごとに丸めてイニングを揃えて比較し、データ数によって加重平均します。その結果がこちら。

補正後LIと球速変化

歪な形になりました。LI 1.0は平均的な勝利確率の振れ幅なんですが一番球速も遅くなっています。平均より勝利確率の振れ幅の小さい場面でも平均的な場面より出力が上がっているのです。

この現象は何故起きるのでしょうか?

改めて振り返ると投手はアウトを重ねるごと、塁を埋められるほど出力を上げる傾向がありました。ということでLIとその要素を照らし合わせてみます。

LIの要素分解

Leverage Index 的視点で見るとランナーの数や点差というのは戦況を左右する大切な要素です。ランナーが多いほど、点差が迫っているほど、高レバレッジになります。

投手もそこは体感で理解しているのでしょう。先ほど確認したようにLI 1.0 ~ では高レバレッジほど出力を上げています。

ただ、アウト数に関しては一概には言えません。例えば1点差の終盤に攻撃側にも守備側にも振れ幅が大きくなるのは無死満塁より二死満塁、5点差の場合二死満塁より無死満塁なのは感覚的にも分かるかと思います。

先発投手の出力が上がっているLI 1.0未満(0.875未満)を見てみると、点差が開いていてランナーが少ない、そしてアウト数は多い傾向にあります。もちろんそんな状況は戦況を左右する状況とはほど遠いんですが、ランナーが少なく点差も迫っているアウト数の少ないLI 1.0付近の状況よりギアチェンジの優先度を上げているということです。

投手的視点で具体的に語るなら、これからさらにレバレッジが高くなるかもしれない1点差無死ランナー無しは力を抑えておこう。2点差でランナー無しだけど2アウトだし力を入れよう。とかですかね。

ここまで調べた感じ、Leverage Indexというよりランナーやアウトの状況を気にしているからLeverage Indexとも関わりがあるように見えると言った方が正しいかもしれません。

対戦打者の打力における出力の変化

次は野球漫画でよくあるやつですね。茂野吾郎がギブソン Jr.とやるときにギアがマックスになるやつ。

現実のMLBでもその現象は見られるのかという話ですが、もちろん見られます。投手はピンチ(失点しやすい場面)で出力を上げているので当然強打者にも出力を上げています。

まずは当該試合の球速の打者ごとの変化です。試合単位ですので当該打者のwOBAと当該打者の属するチームのwOBAを比較しています。

打者wOBAと球速変化 球種ごとに比較していますし、リリーフも入れています

十分な関係性は窺えるのではないでしょうか。

ただ答えを言いますと、投手は打者に対して得点貢献力を基準に出力を上げているかというと微妙なところです。というのも、数多のスタッツの中で一番相関を示したのはxISO(打球速度、角度、スプリントスピードから算出する長打率 - 打率)なんです。

打者xISOと球速変化

wOBAやxwOBA(0.57)との違いは僅かですが、これはISOとwOBAの関係の強さが生み出したもので、アラエズのような打者を拾えるかどうかでISOとwOBAの差が生まれています。

投手の心の中は覗けないので心理の推定は難しいですが、低ISOの強打者を強打者と認識していないのか、低ISOの強打者に出力を上げる利益を高ISOの同程度の強打者ほど感じないのか。ここら辺は生の声が聞きたかったりします。

では試合単位ではなくシーズン単位でも見てみます。

シーズン単位wOBAと対面球速

一応wOBAも出しときますが、xISOが今回も一番優秀です。

シーズン単位xISOと対面球速

チーム打力に引っ張られて対面球速が上がっていたり下がっていたりする選手もいるでしょうが、打者が直面した球速という面ではこちらの方が実情に近いです。警戒度という面ではチームメイトとの比較も材料になるでしょう。

ただこれだけだとチーム内の比較がそのまま出ている可能性も捨てきれないのでチーム単位でも見てみます。

チーム単位ISO+と対面球速

チーム単位ではISO+が一番強い相関を示しましたが、投手がISOを基準に出力を変えること、チーム内の比較だけでなくリーグ基準の高ISO打者にも出力を上げていることが確認できました。

球速やISOは気候とも関わりがありますが、その気候の影響も表れるISO+との相関が一番優秀だったので疑似相関の割合は低そうです。

カウントによる出力の変化

これはギアチェンジというのか微妙ですが、カウントによっても投手は出力を変えています。

カウント別球速変化 打者の偏りの補正はしてます

想像通りだとは思いますが、綺麗にストライク数で傾向が分かれています。

先ほどの打者に対する球速変化の話とも繋がってきますが、打者によってカウント構成も変わってくるので打者への警戒度を測るときはその補正も必要になりそうです。例えば、2023年3-0割合はハーパーが8.8%なのに対してバエズは2.0%です。

まとめ

とりあえずギアチェンジの存在についてまとめると、

  • ピンチになるほど球速が上昇する
  • アウトを重ねるほど球速が上昇する
  • 長打力のある打者を相手にするほど球速が上昇する
  • ストライク数が増えるほど球速が上昇する

あたりでしょう。ちなみに球速が変化しているのは速球のみではなくて変化球も同様に変化しています。


ギアチェンジは成功しているか

次はギアチェンジ(出力の変化)が投手にとって意味のあるものになっているかという視点。

問題提起

この視点について今春FanGraphsにとても興味深い記事が寄稿されました。

球速の変化が必ずしも良い結果に繋がるとは言えないという内容で、結論を出し切るというよりかは問題提起のような形となっています。

もう少し説明すると、2ストライクでの球速上昇量トップ15人のうちピッチモデリング評価で失点抑止力も上げたのは2人のみという結果がまとめられています。球速上昇によりコマンド力が下がるのはもちろん、単純な球質もホップ成分の減少などから上がらない投手も多くいます。

世間の「球速より大事なことがある」という意見をよそに球速が失点抑止力と強い関わりを持つということはセイバーメトリクスに興味がある方はよく耳にするとは思いますが、自身の球速と比較して出力を上げるとどうなるかというのは面白い視点だと思います。

球速変化と失点抑止力

では球速変化と失点抑止力について得点期待値の面から調べてみます。

一応前提として投手自身の球速変化ではなく、そもそもの球速と失点抑止の関係を示しておきます。得点期待値の変化(Run Value)はどっちでもいいんですが、数値が小さいほど失点を抑止していると評価する打者の方のRun Valueにします。

球速とRun Value

当然ですが、球速が速いほど失点抑止力は高まっています。

ただ球速が遅すぎる球は球速ほど失点抑止力は低くありません。これは生存バイアスが大きく影響していると推察できます。

失点抑止力にも足切りラインというものがあり、それを下回る(球速遅、制球変化悪)球はそもそもMLBで観測されないのです。MLBで観測される、球速が遅い = そもそもの失点抑止力は低い球というのは球速以外の要素は他より優れているということですね。

ではここからは投手自身のその試合における球速変化と失点抑止について見ていきます。

まずは無補正から。

無補正球速変化とRun Value

順当に球速が上昇するとRun Valueは減少しているんですが、その減少は +1 km/hほどで頭打ちとなっています。

よく解説で投手の"力み"の負の側面を語られることが多いと思いますが、その負の側面が確認できると言ってもよい結果でしょう(手抜きやスタミナ切れよりは断然良い)。FanGraphsの記事とも繋がります。

ただ先ほど触れたように、投手は打者の長打力 ≒ 打力によって出力を変えています。つまり球速がプラスの方は強打者にマイナスの方は弱打者に偏っているということです。そこの補正はしたいところ。

さらに補正をしたいのは周回効果と投手の疲労による球速の低下。周回効果は打者が “慣れ” によって打席を重ねるほど打ちやすくなるという効果のことです。PitchingBotを開発したCameron Groveによると打者は同じ投手と対面するほど(慣れを考慮していない)期待Run Valueより実際のRun Valueが高くなるとのこと。

つまり、投手が疲れて出力が落ちるときと周回効果によって打たれやすくなるときが重なり、過大に球速変化の影響が反映されている部分を修正しようということです。

そして先ほど触れたカウントによる球速変化の偏りも補正しておきます。結果球ではなくRun Valueなので影響は大きくないですが、2ストライク時と0ストライク時では球速が大きく違い、Run Valueの稼ぎやすさも若干違います。投手目線で3-0ほど稼ぎやすく、0-2ほど稼ぎにくくなっているところの補正です。

方法としては単純に打者の打力とその試合における対面回数、カウントから期待されるRun Valueと実際Run Valueとの比較です。

補正後球速変化とRun Value

大きく形が変わるほどではないですが、無補正だと球速変化と失点抑止力の関係が小さく見積もられていました。打者の偏りによる歪みが大きく+1 km/hほどで頭打ちだったRun Valueの減少も+2 km/hほどまで伸びています。揺り戻しは+2 km/h以上で変わらず観測されています。

では球種による違いもを見てみます。

球種別球速変化とRun Value

通説通りでしょうか、球速を上げれば上げるだけ良いと言いやすいのはFastball > Breaking > Offspeedとなっています。変化球の繊細さみたいなものも窺える図になっています。

ここまでをまとめて、この章の議題【ギアチェンジは成功しているか】についてですが、球速は本人比でも失点抑止に影響を及ぼしている可能性は高く場面の重要度によって出力を調整する合理性はあるでしょう。

ただ、第三者から見て「ギアが上がった」と認識できるほど出力が上がった状態の合理性は疑う必要がありそうです。

ではRun Valueが線形になりきらないところの細部をもう少し深掘りしてみます。

Run Valueの揺り戻しが起きる理由

球速変化によってRun Valueに関わる要素はどう変化しているか見ていきます。まずはストライクカウントが増える⇒得点期待値が下がる割合、ボールカウントが増える⇒得点期待値が上がる割合、それから結果球のwOBAの変化を見てみます。

球速変化と各要素 打力、周回効果、カウントから期待される数字からの乖離 三振と2ストライク未満のファウルもストライクカウント増加の対象

wOBAに関しては完全な線形ではないにしろ、球速が上がればwOBAも下がるといった投手の頑張りが報われる形となっています。Run Valueの揺り戻しが起きる主因はストライクカウント増加割合の減少及びボールカウント増加割合の増加です。

出力を上げると制球が乱れてボールが増えているのか?という点は、投手の狙ったコースが分からない現代では断定できませんが(3-0で出力を下げる投手が多いので投手の意識としては間違いないでしょう)、言えるのはピンチや対強打者や追い込んだときに出力が上がり、ボールが増えていて結果球になれば抑えられている、つまり三振を奪うことを含め投手が結果球の価値を抑えることを目標とし、簡単に勝負にいっていないということです。

では何故ストライクカウントを増やせず、ボールカウントを増やしてしまっているのかという点も掘り進めます。

球速変化と空振り率・ゾーン率

球速が上がるほど空振りは増えますがボールゾーン率も高まり、際どいボールゾーンだけ高まるなんて都合良くはいかないのでしょう、ボールゾーンスイング率も低くなっています。

ゾーン率と引き換えに空振りを増やしているけどそのトレードが球速を上げすぎると割に合っていないという感じです。

また、先ほど触れませんでしたが球速を抑えている(出ていない)球もストライクは増やせず、ボールは増えています。上図で確認できるように空振りが取れない、(若干ですが)ファウルにならないことで結果球になりやすいのはもちろん、ボールゾーンへの投球が増えているんですよね。ここは正直意外でした、というのも周回効果補正である程度スタミナ補正も兼ねられていると思ったので。

なのでちょっと話も逸れますが、投手が球速を抑えてストライクを取りにくる 3-0 カウントに絞って見てみます。

3-0カウントでの球速変化

重ねて言いますが投手はカウントを整えたいときには球速を落とします。しかし落としすぎるとボールゾーンへの投球は増えています。投手の球速分布は正規分布に近いので頻度が高い平均球速付近(の少し球速を落としたあたり)がコントロールもしやすいのかもしれません。

球種による違い

一応球種による違いも見ておきましょう。

速球の球速変化とRun Value これと合わせて考えてみます

速球の球速変化と各要素 速球系

速球はRun Valueの最高値は+3 km/h地点です。他の球種と比べてボールゾーン率の増加が遅くギアチェンジ"しすぎる"弊害が相対的に少ない球種です。

ブレーキング系の球速変化と各要素 カーブ、スライダー系

カーブ、スライダー系のRun Valueの最高値は+1.5 km/h地点で、ギアチェンジで得られる恩恵は一番大きな球種です。 ただ速球と比べると分かりやすいように空振り率やボールゾーン率が乱高下しています。

空振り率の分母はスイングなのでボールゾーン率と比例していますが、ボールゾーン率の急上昇と対応する形でボールゾーンスイング率は下がるのでギアの上げすぎの非効率さも目立つ球種となっています。

オフスピード系の球速変化と各要素 スプリット、チェンジ系

スプリット、チェンジ系のRun Valueの最高値は+1km/h 地点で、(ギアチェンジによって)Valueの出せる幅の狭い繊細な球種です。元々の基準となるボールゾーン率が高いのでそれ以上ボールゾーン率が高くなる(≒ストライクゾーンからの距離が伸びる)とボールゾーンスイング率が他球種と比べて急激に下がっています。

今回はやっていませんが球速変化と変化量変化の関係性を調べればさらにRun Valueとの関係も紐解けるでしょう。(そのためにはStuff + を自作したい)

まとめ

この章の最初に触れた単純な球速とRun Valueの関係と主題である投手自身の球速変化とRun Valueの関係は改めて以下のようになります。

球速比較まとめ

FanGraphsの記事を紹介した際に語ったこちらの感想。

世間の「球速より大事なことがある」という意見をよそに球速が失点抑止力と強い関わりを持つということはセイバーメトリクスに興味がある方はよく耳にするとは思いますが、自身の球速と比較して出力を上げるとどうなるかというのは面白い視点だと思います。

実際調べてみて面白い視点でしたね。

全体を比較対象とした球速と失点抑止の関係より、自身を比較対象とした方が球速の違いが切に失点抑止に関わっています。とまとめるのは雑ですしミスリードでしょう。

左図の傾きが右図より控えめなのも右図が非線形なのも、左図は球速以外の要素がある程度揃えられているのに対し、右図の乖離の大きな球は球速以外の要素がマイナスに働いているからです。その結果揺り戻しが観測され、あの記事のように『頑張りが報われていない投手』も発見されます。

「自身の能力と離れた出力の発揮は他の要素とのトレードで成り立っていることが多く、球速変化による付加価値を減損させる非効率なトレードもある」

これでどうでしょう。言語化能力に自信はありませんがまとめだけ見た方にも伝わっていれば幸いです。

ちなみに+2 km/h のギアチェンジで得られる -0.0025 Run Valueは9イニングの平均投球数150球で見ると、0.375点の減少です。+5 km/hの、期待値以上の失点抑止力を持たないギアチェンジを減らして節約できた分を+2 km/hのギアチェンジに使う。机上の空論感はありますが、このようなピッチング論も面白いと思います。


余談

ここまで見てくださった物好きな方にちょっとしたデータを置いときます。

球速標準偏差ランキング 2017 ~ 2023、先発として1500球以上

標準偏差はMLB単位で小さくなってきているので2017年が多くランクイン。大谷は見てたらすぐ分かるレベルですけどギアチェンジしまくるタイプですよね。二刀流の第一人者がそのスタイルということは疲労の観点ではやはり偏差は大きい方が良いんですかね。(偏差が小さくなったことを投手の怪我の増加の1つの理由と考える人は多いです)

0 ~ +3 割合は何となくスタミナ効率、失点抑止の観点から高いほうが良いのかなと勝手に考えています。+4までいくと非効率かな〜と。

まぁ別に偏差も 0 ~ +3 割合もERAを説明しないのでまだお遊び指標です。

次は本文中に散布図で出した打者の対面球速。

打者対面球速ランキング 2017 ~ 2023、2000球以上

攻撃力の低くないクワンが出力は抑えられていたり、スタントンやゲレーロは爆発イヤーの次の年にも出力を上げられていたり。特に補正もせず並べただけですが打者の警戒度を測る指標の1つでしょう。

で、個人的に気になったのでLAA (wRC+ 101) からLAD (wRC+ 120)に移籍した大谷翔平について対面球速がどうなったか調べました。

大谷翔平対面球速 大谷翔平、対面球速 (2024は 6月6日時点)

もちろんまだ半分もシーズンは消化してませんが、ドジャース内では警戒度は少々落ちている可能性はあれど(敬遠やボール球も減ってはいる)、MLB内で言うと去年以上に相手投手はギア上げてるかもしれませんね。

ちなみに現時点での対面球速トップ 5 とワースト 5 はこちら。

対面球速トップ&ワースト5 500球以上

もう既にお馴染みのメンツがそろいつつありますかね。投手はソトジャッジを迎えるにあたってボルピーでかなり休憩してますけど、逆に大変じゃないんですかね。

疲れたのでこの辺で終わっときます。アホみたいに長い 記事を読んでくださりありがとうございました。。


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